高校生の熱も変換しちゃう??

開催日:2018年7月17日(火)

講 師:理学系研究科物理科学専攻
熱電物性グループ准教授 小菅厚子 先生

日差しが照り付ける中、ヒンヤリとした会場では、高校生たちの真剣な眼差しがスライドに向けられていました。

そんな高校生たちの熱量が感じられたのは、大阪府立大学生命環境科学域 理学類主催の高大連携講座でした。高大連携講座では高校生が大学の学びに触れることができます。
今回は泉北高校の皆さまをお迎えしました。

講師は大阪府立大学 大学院理学系研究科物理科学専攻 熱電物性グループの小菅厚子准教授。内容は熱電発電技術についてです。わかりやすい言葉、柔軟な構成で高校生に寄り添った講義でした。

華氏は羊の体温!?
まずは、身近な温度のお話から。温度には華氏と摂氏という2つの尺度がありますが、なぜ2つの尺度があるのか、それぞれがどういった基準で定められているのかをお話しいただきました。
ファーレンファイト氏により提唱された華氏は、自身で作り出せる氷と塩化アンモニウムの混合体の氷点を0℉に、羊の体温を100℉に設定して提唱したそうです。なんともわかりづらい印象を受けました。摂氏はアンデルス・セルシウス氏が水の氷点を0℃に水の沸点を100℃に設定して提唱したそうです。やはり指標となる物質が水のせいか身近でわかりやすい印象を受けました。

温度と熱

「温度とは寒暖・温冷の尺度ですが、熱はどうでしょうか?」
という問いかけに、虚をつかれたのか、高校生たちは黙ったまま。
「熱は、温度差によって移動するエネルギーです。」
と解説を受けると、なるほどと頷きながらメモをとっていました。

熱は質の低いエネルギー

「世の中にはさまざまなエネルギーがあります。その中でも電気エネルギーはロスが少なく質の高いエネルギーです。一方、熱エネルギーはロスが多く質の低いエネルギーです。
そのロスの部分を廃熱といい、高温廃熱利用に関しては比較的効率的で世の中に広く普及しています。しかし、低温廃熱に関しては未だに回収効率が悪く活用できていません。ただ低温廃熱は莫大なため回収できるとこれまで以上の省エネが期待できます。」
数多くあるエネルギーの中でもロスの多い廃熱に熱い視線を向けておられる小菅先生の表情が印象的でした。

熱電モジュールに興味津々

低温廃熱回収の一つの技術のパーツとして熱電モジュールが紹介されました。平べったい正方形の白い筐体から赤と黒の電極が伸びているだけの簡単な装置ですが、多大な可能性を秘めている様子。高校生たちの手から手へと渡りその簡素な装置の可能性を感じているのか、いないのか、複雑な表情でおそるおそる触っていました。
いよいよ、小菅先生がその装置を動かします。
その装置が繋がれる先にあったものは、小さなオルゴール。まずは電池をつないで、どんな音が出るかを試聴します。聞き慣れた安定感のある音です。続いていよいよ熱電モジュール。

平べったい面の下に保冷剤を敷いて、「ここからはスピード勝負」とおっしゃりながら、上の面に熱湯を入れた金属製のコップを乗せると……なんということでしょう、オルゴールがか細い音色を奏で始めました。電池をつないだときほどの音は出ませんが、たしかに音色を奏でています、発電しています。高校生たちも感動しています。感動解明、理学類です。

熱電発電の仕組み

「なぜオルゴールが鳴ったのでしょうか? 熱を電気に変換したからなんです。」
保冷剤と熱湯の間に熱電モジュール(熱電材料)を入れることで起電力が生じ、その電力でオルゴールが鳴ったということです。この温度差から起電力が発生する仕組みをゼーベック効果というそうです。
ご説明中にスライドでトーマス・ヨハン・ゼーベックさんがスライドに映し出されました。クリっとした目で前方を見据えています。今、この瞬間、講義で自分のことが語られているとは思ってもみないことでしょう。

どんな熱電材料がいいの?

この熱電発電をより高効率に利用するために、

  • 少しの温度差で大きな起電力が得られる材料
  • 大きな電力を得るため電気がよく流れる材料
  • 温度差をより効率よく電気に変換するため熱を通しにくい材料

が必要になってくるそうです。
金属は電気を通すが熱も通す。
セラミックスは熱を通しにくいが電気を通さない。
一長一短があるためいずれも高効率発電には適していないようです。
難しいですが、電気を通しながらも熱は通さない理想的な材料の研究開発が熱電発電一般化の試金石になっていくようです。

可動部なし、騒音なし、排出物なし、熱電発電の応用

「パルチザンの鍋って聞いたことありますか?」
高校生「・・・・・」
独ソ戦争時の1940年ごろに旧ソ連で使われていた鍋で、なんと熱電発電を利用し、無線通信装置を動かしていたというのです。
70年も前から熱電発電が使われていたことに、驚いたのか、ここでも高校生たちは静かに話に耳を傾けていました。
その他にも、探査機カッシーニではラジオアイソトープの崩壊熱※を利用した熱電発電器が使われており、熱電発電器の長寿命、小型化が容易、メンテナンスフリーなどのメリットが思う存分に発揮されていたり、体温と外気温の温度差で熱電発電を実現した腕時計は熱電素子の材料が高いため価格が高額になってしまった事例などを通して、宇宙用・軍事用電源としての利用は広がっているが、民生用としての利用はまだまだこれからという熱電発電の課題をお話いただきました。

※ラジオアイソトープの崩壊熱・・・不安定な物質が安定した物質になろうとして余分な質量を放出することによって発生する熱

廃熱は宝の山!?

日本で消費される一次エネルギー※の約七割が廃熱として捨てられてるそうです。
自動車の廃熱についてでは、車の座席着席時に背中などの汗ばむところを熱電冷却できる座席が実用化されていたり、走行時にエンジンや排気ガス等の廃熱を利用して発電できる開発も進んでいることや、温泉の廃熱利用では、温泉は安定した熱源のために技術が整えばこれまで未利用だった資源をエネルギーに変えて行くことができることをお話いただき、廃熱が宝の山であることを知ることができました。

※一次エネルギー・・・自然界から得られる変換加工しないエネルギー。主に石油や石炭、天然ガス、ウランや太陽光、水力、風力など

府大理学類、小菅研究室はこんなところ

最後は研究室のお話。高校生にとって大学生活は最大関心事の一つ。難しい内容から開放されて少しホッとした表情。
小菅研では、基本的にコアタイムだけ研究室にくればその他の時間は居ても居なくてもいいそう。ただし、やることをやっていればの話。どこか欧米のようなシステムに新鮮さを感じ、高校生たちの感度も上がっている様子。さらに研究室でのイベント時の写真がスライドで流れてくると、思いの外楽しそうな雰囲気に安堵するような声もちらほら。大学での研究室生活を垣間見れたことで、将来への希望や不安といったエネルギーが楽しみという心躍るエネルギーに変換されたようでした。

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