導電性ポリマーでのノーベル賞受賞を知らない世代 !?

開催日:2018年7月23日(月)

講 師:理学系研究科分子科学専攻
機能物質科学グループ教授 藤原秀紀 先生

JST主催のSSHセミナーにMHSの学生を迎えて行われました。

大変、失礼いたしました。頭字語が多すぎました。
JST・・・国立研究開発法人 科学技術振興機構
SSH・・・スーパーサイエンスハイスクール。
     高等学校等で先進的な理数教育を実施する取り組み
MHS・・・大阪府立三国丘高等学校
です。

初めて訪れた大学の実験室に興味津々の高校生たち。丁寧な挨拶のあとは、高校では見ることができない機材をみたり、複雑なコード類に気をつかったりとどこか落ち着かない様子。
講師は大阪府立大学 大学院理学系研究科分子科学専攻 分子解析科学分野の藤原 秀紀教授。優しい語り口調で、高校生たちの緊張をほぐされていました。

電気を通すプラスチック??

実験の前に、電気を通すプラスチック、導電性ポリマーについてのレクチャーです。

日本発といっても過言ではない導電性ポリマー研究は2000年に白川英樹先生がノーベル化学賞を受賞なさったことで有名になったそうです。そのことについて高校生はピンときていない様子。藤原先生がはっと、気づかれたようで、みなさん産まれてないですよねっと、苦笑い。たまたま、触媒の量を間違えて生成された物質・ポリアセチレンにまつわる研究で受賞にいたった経緯などにふれ、高校生たちの耳に届くようにお話なさっていました。

導電性ポリマーの用途についてでは、電気を通しながらも、加工性や柔軟性に優れ軽量で透明性の高い性質を活かし、スマホの充電池やタッチパネル、有機ELディスプレイなど多くの先進的なシーンで使われていることを知り高校生たちの目もキラキラでした。

ポリアセチレンをドーピング!!

ポリマーとは複数のモノマー(単量体)が重合することによってできた化合物で、軽くて柔軟で丈夫、成形がしやすいという性質を持っているそうです。ポリエチレン等があり、電気ケーブルなどの絶縁材料として活躍しているそうです。

そんな中でも白川先生が偶然発見したポリアセチレンは導電性を示さない絶縁体だったそうなんですが、ドーピングを行うことで、100億倍の導電性をしめすようになったそうです。ここで言うドーピングとはヨウ素などの酸化剤を加え、電子を部分的に抜き出しキャリアを発生させる行為。ドーピングという言葉で高校生たちも活性化されたようでした。

待ちにまった実験!!

このセミナーの主題、導電性ポリマーに触れてみようということで実験開始です。

①ポリピロール膜の作製
②ポリアニリン膜を使ったエレクトロクロミズム現象の観察
③ポリアニリン膜を使った電池の観察

聞き慣れない言葉がならんでいますが、高校生たちはワクワクしている様子。
まっさらな白衣ではあるものの、ゴーグルを付けた姿はまさしく研究者そのもの。

ポリピロール膜の作製の前半

まずは比較的簡単に合成できる導電性ポリマーとしてポリピロールを作製します。

ビーカーにピロール0.34gとラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.35gを入れ、蒸留水100mlを加えてかき混ぜるのですが、高校生にとっては初体験。電子天秤の使い方、水道水と蒸留水の違いなど、新たなチャレンジに四苦八苦。藤原先生の丁寧なフォローもあり、なんとか準備完了です。

ステンレス電極2枚を作製した溶液に浸し、直流3Vを印加します。

すると赤の電極につけているステンレスに変化が。端の方から黒く変色していきます。徐々に薄膜ができていきます。感動です。高校生たちからも軽い歓声があがります。と盛り上がったところで、あとは膜を分厚くするために40分放置だそう。焦らされます。その間に他の実験を行います。

ポリアニリン膜を使ったエレクトロクロミズム現象の観察

続いて、ボーイング787 の調光窓として有名なエレクトロクロミズム現象の観察です。

エレクトロクロミズム現象とは、電気によって色が変わる現象。今回のポリアニリン膜ではドープ状態(酸化状態)時には青色に、そこから電圧を逆向きにかけると脱ドープ状態(中性状態)になり黄色に見えるそうです。お話だけでワクワクしますね。

ビーカーに約0.2mol/Lの希硫酸水溶液50mlをとり、アニリンを0.9ml加えます。発生した白色の濁りが完全に溶けるまで、かき混ぜます。

まずはポリアニリン膜を作製します。

ITO電極とステンレス電極を接続します。ITO電極とは酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)で無色透明であるため、色の変化を観察しやすいとのことです。

先程かき混ぜた溶液に電極を入れて3Vの直流電圧を10秒ほど印加すると、青色の薄膜ができました。

その後、2つの電極を電解質溶液(0.2mol/Lの硝酸ナトリウム水溶液)の入ったビーカにー移します。電圧をかける向きを逆にして3Vの直流電圧を印加します。すると、青色だった薄膜が黄色に徐々に変化していくのです。ビーカーの中に向けられている数多くの目が見開かれていました。

さらに電圧をかける向きを入れ替えるたびに、青色、黄色と幾度も変化をくりかえすのです。もしもこの実験の前にボーイング787に搭乗しエレクトロクロミズムの調光窓に出会っていたら、感動していたことでしょう。その感動を解明したいと思ったことでしょう。ここで解明されたのです。まさに感動解明、理学類です。

ポリアニリン膜を使った電池の観察

先程と同じ溶液に2枚のステンレス電極を入れて、3Vの直流電圧を3分ほど印加し、少し分厚い膜を作製します。

その後、また先程と同じように電解質溶液の入ったビーカーに移します。その後、テスターで電極間の電圧をはかると・・・0.7V程度の電圧を示すはずが、そのあたりの数値を行ったりきたり、テスターの当て方によっても数値が変わってくるそうで、想定の数値とは行きませんでしたが、通電している様子を垣間見ることができました。

次に端子同士を接触させて回路をショートさせた後、再度テスターで電圧をはかりました。電圧は先程より低下しています。再び3Vの直流電圧電源に接続した後、テスターで電圧をはかると・・・また、0.7V程度の数値が表示されました。つまり、微量ながら充電・放電を繰り返すことができる、二次電池※ができたのです。あっという間のできごとで理解が追いついていませんでしたが、さらに幾度か充電・放電を繰り返すことで、電池として機能していることに理解が追いつきました。
※二次電池・・・一度きりではなく、充電するたびに使用できる電池

ポリピロール膜の作製の後半

さて、覚えていますか、ポリピロール膜。かれこれ40分もほったらかしです。どうなってるのでしょうか。溶液から取り出してみると・・・・ステンレスの電極にビニールテープが貼り付いています!! 違う実験をしている間にすり替えられたのでしょうか?いえ、それほど分厚い膜がこの実験でできていたのです。ステンレスから剥がすためにステンレスごとハサミで切り取ります。高校生の震える手で切断すると、本当にビニールテープのような膜がピンセットに挟まっていました。

テスターを当てると、なんと電流が流れています。ビニールテープは電流が流れません。不思議です。感動です。40分待ったかいがありました。

府大理学類、分子解析科学分野の藤原研はこんなところ

高校生たちの初実験が終わりました。もっと実験したいという表情を察してか、藤原先生のご厚意で研究室を案内していただくことに。

藤原研では伝導性・磁性・光機能性など様々な機能性を有する有機物質の開発に注目し、機能性有機化合物の合成、構造解析、物性評価などに日夜取り組んでおられます。
見慣れない研究機材の使用目的や使い方のご説明の際には、機材の金額を聞いた高校生の一人は電気が通ったかのように、目を丸くしていました。

藤原研の数多くの機器を見たり、説明を聞いている間に実験したい意欲がさらに高まり、理学類への興味が倍増しているようでした。

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