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河内 明夫
大阪市立大学大学院
理学研究科教授
21世紀COEプロジェクト
「結び目を焦点とする広角度の数学拠点の形成」
拠点リーダー(〜2008.3)

「ヘテロ」大学院GPに期待すること

大阪市立大学大学院理学研究科
教授 河内 明夫

    大阪府立大学理学系研究科において、文部科学省・平成20年度大学院教育改革支援プログラム(GP)「ヘテロ・リレーションによる理学系人材育成」が採択され、活動を開始されたことに対し、お祝いを申し上げます。
     私は数学を研究していますが、この度、アドバイザリーボードの一人として、本GPと関係することになりました。昨年度(平成19年度)までの5年間、大阪の同じ公立大学である大阪市立大学で、21世紀COEプログラムの拠点リーダーを務めておりました。われわれのプログラムは終了しましたが、プログラムの受け皿を動機の1つとして立ち上げた数学研究所を通して、われわれの活動は現在も続いています。本GPにおいて、私の経験でお役に立つことがあれば、それは、またわれわれのプログラムをより洗練させるのに役立つと思い、役をお引き受けしました。よろしくお願い致します。
     このGPの具体的事業には、ゲストプロフェッサーを招聘して講義と討論をさせること、大学院学生を国際会議へ派遣すること、国外協定大学との間の大学院学生間の交流を行うことが含まれ、そのために大学院学生に自分の研究のプレゼンテーションの練習を行わせるなどの事業を行い、その実行を通して、大学院学生を鍛錬することになっています。このように、このGPの事業では、われわれの事業でもそうだったのですが、大学院学生の国外研究者との交流にウエイトが置かれています。
     国外研究者との交流は、たとえコミュニケーションに難があるとしても、研究のために極めて重要であることは、周知の事実であり、いまさら論じることもないかも知れませんが、私自身の経験をもとにした私なりの考えを簡単に述べたいと思います。
     私は、大学院博士課程を修了して1年後に、従って30年以上も前ですが、米国プリンストンの高等研究所(Institute for Advanced Study) に、2学年滞在する機会がありました。その経験は、私にとって大変に貴重な経験であり、今日に至るまで私の研究人生に大きな影響を与えています。言葉・習慣・文化の違う人達が、ひと所で一緒に、同じ科学研究分野の問題を考えるということは、一人で頭の中で思いつくままにいろいろと考えるのと違って、何か根源的な考え方の違いを肌で実感することができ、研究を進める際の哲学や研究方法を考えるに当たってためになる多くのことを気づかせてくれるものです。また、論文を通してしか知らなかった国外の研究者と実際に会うことは、面白く有益で楽しいものです。例えば、論文から受けたイメージとは全然違う人だったりすることはよくあるし、研究のモティベーションを高める上でよい影響を受けることもあります。もちろん、大学院学生にとって、言葉・習慣・文化の違う国外研究者達と付き合わされることは面倒なことであることも確かですが、それとて国際的に生きる感覚を養う上では役立つものです。
    このGPの事業には、また、英語のプレゼンテーションの訓練も組み込まれています。今日では、どの国においても、科学研究を行うには英語さえ知っていれば何とかやっていけると言っても過言ではありません。英語でのプレゼンテーションの訓練および簡単な英会話は、科学研究には必修であるといえます。英会話については、簡単なフレーズを暗記して、国外招聘研究者との討論を通して、慣れていくのが現実的な方法ではないでしょうか。
    われわれのプログラムでは、われわれにとって比較的楽に実行できるようないろいろな事業を実行に移しました。例えば、「数学のための英語講座」という外国人講師の講座や現在も継続中の司会・講演・質疑をすべて英語で行う「Friday Seminar on knot theory」というセミナーもあります。また、韓国の研究提携をしている大学2校と、「大学院学生のワークショップ」という大学院学生達が講演する事業も毎年行っています。他に、ティータイムの時間を作ったり、後期博士課程学生を対象に数学研究会論文賞を創設したりと、「大学院学生を元気にさせる方策」を実行しました。本GPでも、実行予定になっている事業の具体化の1つとして、比較的楽に実行可能で、大学院学生達を元気づかせるような何か楽しいイベントがなされることを期待します。
    このGPでもホームページが立ち上がっていますが、われわれのプログラムのホームページでは、「公開できるものはできる限り公開する」という方針のもとで、イベントやその他の情報について積極的に公開してきました。その記録は、数学研究所のホームページから辿って閲覧することができます。ホームページでの公開重視は、担当教員が忙しい中で事業を展開しなければならないことを思えば、事業その他の案内を手早く広く周知させたり、事業の打ち合わせの回数を減らしたりできるメリットがあるので、大変に便利な手段であると考えます。また、COEやGPのようなプログラムにおいて、次々と事業を実行して成果を上げていくには、「こうしようかと思い立ったら、実行しながら考える」位の気構えが必要である、と思います。
    このGPが真に成功するように、担当教員の皆様の英知と大学院学生の皆様のがんばりに期待します。