クローズアップ 教員 インタビュー

生物科学課程 / 生物科学専攻

構造生物学研究室

2016年10月

准教授 木下 誉富 Takayoshi Kinoshita

Q.1 担当しておられる授業を教えてください。
3回生配当「構造生物学」、2回生配当「基礎物理化学」と「生物系機器分析学」、大学院では「構造生物学特論」を担当しています。また、生物科学実験Iと生物科学実験IIでタンパク質の構造と機能に関する実験を担当しています。
Q.2 授業での特徴的なお取り組みがあれば教えてください。
構造関連の講義では視覚的な理解が必須となります。コンピューターグラフィックスに分子の立体構造を表示しながら構造と機能の密接な関係を直感できるようにしています。また、物理化学系の講義では、物理化学的な思考方法を磨くことを重視しています。そのため講義ごとに振り返りテストを行っています。
Q.3 ご専門の研究内容、研究テーマを教えてください。
研究テーマから将来の夢を語ってください。
主な研究分野は構造生物学と創薬化学です。
タンパク質は生命の恒常性を保つために無くてはならない物質です。これら内在性のタンパク質の異常、あるいは病原菌などに由来する外来タンパク質による生体撹乱が起きると病気になります。我々は正常状態あるいは異常状態のタンパク質の立体構造をX線結晶構造解析で調べて、その働きを原子レベルで明らかにしています。このことが医薬品の開発につながり、様々な病苦から人々を解放すると考えています。
Q.4 ご自身の研究を通して、社会にあるどのような課題の解決を目指しておられるか、教えてください。
有効な治療法のない病気がまだまだ残されています。我々は、このような病気の発症するメカニズムを原子レベルで明らかにし、論理的な医薬品設計あるいは設計手法の開発を行います。これを実践していくことが、健康社会の実現につながると考えています。
Q.5 研究室で大切にされているモットーがあれば教えてください。
やるときは集中してやる。落ち着いた心で研究する。
Q.6 ご自身の研究室について、過去現在を問わず、語り継がれる話題、印象深いできごと、名物イベントがあれば教えてください。
例年、白鷺祭のOPEN LAB.に出展しています。街の知識人、ご近所さん、中高生など多岐にわたる方々に我々の研究内容をできるだけ判り易く説明しています。構造生物学の概要説明や医薬品が病原タンパク質に結合している様子を見ていただいたりします。ご興味をお持ちいただければ、白鷺祭にお越しください。
Q.7 研究心得のようなもので、学生に伝えたいことを教えてください。
世界中の誰もやっていないことに挑戦してください。そして、諦めないこと。さすれば、道は開けます。
Q.8 研究が成功したときを振り返られて、大切なことを教えてください。
一見、失敗と思われるデータの中にこそ、世界がひっくりかえるような大発見のカギが隠されています。研究とは未知のことを知るために行うので、うまく行かないことのほうが多いのが当たり前です。いわゆるネガティブデータを見つめると何やら新しい事実が浮かび上がってくるものです。研究は実験と考察、そして次の実験というサイクルの繰り返しです。
Q.9 研究に失敗したときを振り返られて、大切なことを教えてください。
そんなすぐに結果はでないと、楽観的に捉えるとよいでしょう。研究というのは、わからないことを知ろうとする挑戦です。もちろん、日々精進して技術的あるいは論理的な素養を高めていくことも肝要です。
Q.10 セレンディピティを実感した体験がおありでしたら教えてください。
期待していたことと実験結果が全く異なることは多々あります。しかし、その中にセレンディピティはあって、誰の前にも現れます。普段から真摯な態度で研究していれば、「あっそうか」と重大な事象に気付くことができます。自身の研究を振り返ってみても、小規模ながらセレンディピティに出くわしました。データを素直に受け入れ、自説を修正する柔軟な研究態度が大切だったと思います。
Q.11 サイエンスの世界に興味をもったきっかけ、子供の頃や青年時代のエピソードを教えてください。
ふと、物心がつくと不思議なことだらけでした。周りの大人は「なんで?」坊やに難儀したようです。
「あの花は赤いのに、こっちは白い?」「犬はどうして4本足なのか?」「片目でも見えるのに、目が2つあるのは何故?」など。生物の成り立ちやしくみに疑問を抱き続けて、現在の研究につながっているように思います。
Q.12 研究者の道を志したきかっけを教えてください。
幼少のころから、この世界のことをすべて理解したいという強い欲求がありました。ということで何の疑問もなく、高校生の時に理系に進みました。そこで化学の面白さに触れて、研究者になるようなイメージが徐々に生まれてきたところで、大学に進学しました。その後、研究室に配属されたときに、子供のころからの疑問の数々が結晶構造で解き明かされるのを目の当たりにし、研究者になる意思が段々と固まっていったように思います。
Q.13 壁にぶちあたった時に、ご自身の支えになった事、人の言葉などを教えてください。
「どうせやるのなら、一生懸命にやったほうが楽しいやん。」大学の水泳部の合宿で、終わりの見えない練習をこなしていた真夏の、とある先輩の言葉です。普段いい加減な感じの先輩が言い放っただけに、「何言うてんのやろ」と最初は流していました。しかし、あまりに考えることが無くなってしまったので、試しに頑張ってみました。すると、あっという間に練習が終わり、経験したことのない、すばらしい高揚感が残りました。そうこうしているうちに今度はどうやったら早く泳げるのかを考えるようになり、ビックリするくらいにタイムが伸びました。どんな壁でも自分で乗り越えようとさえすれば、方法は必ず見つかります。高い壁を何とかクリアしたときの高揚感は何事にも換えられません。ピンチはチャンスです。
Q.14 座右の銘や好きな言葉があれば教えてください。
「失意泰然、得意淡然」
中々こうはいきませんが、心がけています。
Q.15 映画・音楽・エンターテインメント・小説をはじめ文化全般に触れたときに着想されたことや感じたこと、旅先で訪れた異国、国内のことなど、最近、心に残ったことがあれば教えてください。
音楽にはずいぶんと助けられた。とりわけサザンオールスターズからは長きにわたり元気をもらった。38年前にザ・ベストテンで初めてみたときには、子供の目にも「なんじゃ、これ。」という印象しかなかった。しかし、その半端ないパワーとちょい悪な感じに圧倒されもした。驚くべきことに、そのときに感じたものは今も一切失われていない。学生の頃はやさぐれた心の解放のために、いまでは老若男女が知っているがゆえにと、理由は変われどカラオケにいけばサザンを熱唱する。彼らの努力の賜物であろうが、あのときの異端ぶりから、いまや国民の定番となっていることは感慨深い。研究も同じようなことが言えるのではないか。定説とかけ離れていることを主張すれば、たとえそれが真実であっても最初は総攻撃的な非難の嵐にさらされる。ガリレオ然り。アインシュタインもまた然り。だが、辛抱強く、様々な実験により科学的根拠づけが行われれば、それが定説となっていく。研究は信念と粘りが肝腎だとつくづく思う。
Q.16 二〇代に薦めたい書籍を教えてください。
  • 炭素文明論、佐藤健太郎著(新潮社)
  • 新薬に挑んだ日本人科学者たち、塚崎朝子著(講談社)
  • 「すぐやる脳」のつくり方、茂木健一郎著(学研)
  • 夢をかなえるゾウ、水野敬也著(飛鳥新社)
  • 研究者としてやっていくためには、長谷川修司著(講談社)

木下 誉富