クローズアップ 教員 インタビュー

分子科学課程 / 分子科学専攻

有機金属化学・錯体化学研究室

2016年11月

准教授 竹本 真 Shin Takemoto

Q.1 担当しておられる授業を教えてください。
無機化学特論、無機化学演習、科学英語(化学)、分子構造解析II、分子科学実験I・IIを担当しています。
Q.2 授業での特徴的なお取り組みがあれば教えてください。
無機化学の授業では、レポートの添削を丁寧に行っています。物事を理解したかどうかは、その内容を文章にして正しく説明できるかどうかによって確かめることができると言われます。聞いて理解するレベルにとどまらず、自ら筋道立てて説明できるレベルまで理解を深めていただきたいと考えています。
Q.3 ご専門の研究内容、研究テーマを教えてください。
金属触媒はプラスチックや医薬品などの様々な化学製品をつくるプロセスに利用され、また、生物が生命活動を維持するための化学反応にも不可欠のものです。金属触媒は、ある物質が別の物質に変化する化学反応の「舞台」として働きますが、望みの反応を効率的に引き起こすためには、その反応に最も適した「舞台」を用意する必要があります。私たちは金属触媒の候補となる新しい金属化合物を合成したりその反応性を明らかにしたりするような研究を行っています。このような研究は、既存の触媒反応の効率化や反応機構の解明、さらには全く新しいタイプの化学反応を可能にする金属触媒の創製に貢献します。
Q.4 ご自身の研究を通して、社会にあるどのような課題の解決を目指しておられるか、教えてください。
金属触媒に関する研究を通じて、地球温暖化や再生可能エネルギーの問題に貢献できればと考えています。たとえば太陽光のような再生可能エネルギーを化学反応の駆動力として(= CO2をなるべく出さずに)、地球温暖化の原因のひとつとされているある種の温室効果ガスを、医薬品等の原料となる有用な化学物質に変えてしまうような一石三鳥の働きをする金属触媒の開発を目指しています。
Q.5 研究室で大切にされているモットーがあれば教えてください。
コミュニケーションをとることですね。自分の研究テーマだけでなく他のグループメンバーの研究にも常々関心を持ち、色々なことを質問しあったり、ディスカッションをするなどして研究室という環境を楽しんでもらいたいと思っています。
Q.6 研究心得のようなもので、学生に伝えたいことを教えてください。
献身的であるということを挙げたいと思います。これは研究の進展に貢献するために、自分の能力と時間を最大限に注ぎ込むいうことです。その結果、満足のいく成果が得られたときの達成感は非常に大きなものですし、何かをやり遂げたという実績と自信を手にすることができます。大学での優れた研究成果は、研究に携わる学生のこのような献身的な努力の結果生み出されてくるものであり、また、学生にそのような経験をする機会を提供することは大学の重要な使命です。研究室に入ってきた学生の皆さんにはこの貴重な機会を存分に活用していただきたいと思います。
Q.7 研究が成功したときを振り返られて、大切なことを教えてください。
まずは研究がうまくいったことを研究グループのメンバー(教員・学生とも)に披露して祝福してもらいましょう。一方、研究成果は論文として公表しなくてはなりませんが、最初の手がかりを見つけてから論文を公表するまでにも多くの労力を要します。最後まで油断せず必要なことをしっかりとやり遂げることが大切です。
Q.8 研究に失敗したときを振り返られて、大切なことを教えてください。
ある試みがうまくいかなかったという実験結果も、それまで知られていなかったことが分かったという意味では大切な研究成果の一部です。一つの知見ととらえて次の手を考えましょう。
Q.9 セレンディピティを実感した体験がおありでしたら教えてください。
化学は目に見えない原子・分子の世界を対象としていることもあり、想定外の実験結果に出会うことが多々あります。右の図に示した反応は約10年前に私たちが発見したものですが、この反応で得られた化合物は、炭素原子が3つの金属原子とだけ結合した全く新しい構造を含んでいます。このような反応が起こることは当時誰も予想することはできませんでした。ある時、この反応の原料である化合物を加熱してどんな反応が起こるか調べてみようということになり、普通は100℃くらいに加熱するのですが、まだ経験の浅い学生がたまたま40℃という比較的低い温度で加熱をおこなったところ、偶然この生成物が収率93%で合成されたのです。ところで、この発見がセレンディピティーとなりえたのは、運良くこの反応が見つかったからだけではありません。得られた実験結果がどのような点で素晴らしいのかを把握する見識が必要なのです。「チャンスは備えあるところに訪れる」(Chance favors the prepared mind)と言われます。セレンディピティーに出会うためには、ただ運が良いだけではなく、チャンスをものにできるだけの学術的な見識を養っておく必要があります。
Q.10  研究者の道を志したきかっけを教えてください。
中学・高校時代、数学の難しい問題の解き方をひらめいた瞬間の心地よさが好きでした。大学の研究室に入ってからも似たような感覚で、ひらめき重視で研究を行っていました。図書室にこもって文献を調べ、アイデアをひらめいては実験室で試してみる。解決方法を自分で考えて試行錯誤するというプロセスは時間的余裕がたっぷりとある大学院生にとっては非常に楽しいものでした。このようなかたちで、研究が楽しいと思えたことが研究者の道を志したきっかけです。
Q.11 壁にぶちあたった時に、ご自身の支えになった事、人の言葉などを教えてください。
大学の助手になりたての頃、学会でポスター発表をしていると、その学会の偉い先生がこれられて、ひとこと「よく考えてやりなさい」と言って下さいました。また、全く状況は異なりますが、学生時代からお世話になっている別の先生には「竹本君は何でも難しく考えすぎやで」とのご助言をいただいたこともあります。世の中には多くの名言がありますが、自分に対して直接かけていただく言葉ほど貴重なものはありません。学会などに積極的に出向いて多くの人と関わることを心がけています。ただし、何かを言っていただくためには、それに価する何かを自分が持っている必要があります。前述の2つの言葉ですが、新しく研究テーマを設定する際は、よく考えることが極めて重要だと実感しています。一方、研究目的の達成に向かって試行錯誤を繰り返すステージでは、あまり難しく考えすぎないようにしています。
Q.12 座右の銘や好きな言葉があれば教えてください。
「世に生を得るは事を為すにあり」(坂本龍馬)。
せっかく生まれてきたのだから、何かやってやろうじゃないか、という意味だと解釈しています。坂本龍馬はいつも速歩きだったと言われています。事を成し遂げるために一刻も早く目的地にたどり着きたかったのでしょう。3年前にヨーロッパの研究室に4ヶ月ほど留学する機会がありました。行きの飛行機の中でこの坂本龍馬の言葉が頭に浮かび、せっかく行きのだから4ヶ月のあいだに必ずよい成果を上げて論文を出してやろうと決意しました。そうすることが私自身にとっても留学先でお世話になった先生にとっても、また、私の留学をサポートしてくださった府大の関係の方々にとっても最良の結果となるからです。幸いにも4ヶ月のあいだに大変面白い実験結果が得られ(ここでもセレンディピティーに出会いました)、化学系の一流誌に論文を掲載することができました。冒頭の坂本龍馬の言葉に影響されて、必ず成果を出すという決意を固めたからこそ成し遂げられたのだと思います。為せば成る!
Q.13 二〇代に薦めたい書籍を教えてください。
  • 「学問のすゝめ」福沢諭吉
  • 「化学の歴史」アイザック・アシモフ
  • 「坂の上の雲」司馬遼太郎
  • 「人を動かす」デール・カーネギー
  • 「英会話ペラペラビジネス100」スティーブ・ソレイシー、ロビン・ソレイシー

竹本 真