数学パワーが世界を変える!

 

2019年10月2日(水)、大阪府立北千里高等学校にて、産経新聞進学相談会主催の「分野別模擬授業」が実施されました。
同校2年生を対象とした全20分野の模擬授業のうち、本学の理学系研究科 数理科学専攻 松永秀章教授が理学を担当。
「計算力と論理力について」と題し、理系志望の生徒向けに模擬授業を行いました。

松永教授

時代は数理資本主義

「なぜ学校で数学を学ばないといけないか」
これまでなんとなく、当たり前のように授業を受けてきた数学の意義について解説するところから授業はスタート。

「小学校で学ぶ算数は社会生活を送るのに不可欠な知識ですが、数学は自然科学の基礎となっていて、そのほかにも色々と役立ちます。それが、数学が基礎科目といわれる所以で、その人の進路、生き方により、勉強すべき数学の内容も変わってきます。大学で学ぶ数学の知識には国際基準があって各国の目標の高さはほぼ同じですが、教育目標により国民の質が決まり、それによって将来の国力も決まってきます」。

国民の質、将来の国力・・・。未来を担う若者にとっては聞き逃せないキーワードの数々に、クラスの集中力は一気に高まります。

「経済産業省が【数理資本主義の時代〜数学パワーが世界を変える】という報告書をまとめたとの新聞記事(出典:2019年4月12日読売新聞朝刊)もあります。
【第一に数学、第二に数学、第三に数学】
【社会が数学によって形作られつつある】
【数学が国富の源泉】と、
数学礼賛の言葉が並び、数学嫌いの人は困ってしまうかもしれませんね。ですが、国としても今後、数学の学びを重要視していきますという内容です」と松永先生。

実際に近年は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米国の巨大IT企業が市場を席巻し、IT(情報技術)革命に完全に乗り遅れてしまった日本。
AI(人口知能)や、ビッグデータと呼ばれる膨大なデータを使う「第4次産業革命」が進む中、日本政府や産業界は巻き返しを図っています。

社会が求めているのは数学を学んだ人材

「突き詰めて行き着くのは数学。今、数学を学んだ人材が社会に求められています。つまり、数学パワーが世界を変える。皆さんが勉強している数学は、将来、社会に役立つ人材として学ぶ基礎になっているということを知ってほしい」。
松永先生の力強い言葉を聞いて、生徒の目が輝きを増します。
と同時に、それを裏付けるような資料が登場!アメリカの職業ランキング(出典:アメリカ求人情報サイト キャリアキャスト・ドットコム/2014年)です。

「1位は数学者、3位が統計学者、4位が保険数理士(アクチュアリー)、8位がコンピューターシステム(システムエンジニア)と、5年前からアメリカでは数学を学んだ人が活躍し、職業ランキングの上位をしめています」。

ほかに数学科の卒業生の主な就職先としてあげられているのは、中学・高校の数学教員、情報通信業、金融業、生命保険会社、ソフトウェア会社、メーカー、教育関連会社、公務員、研究者など。誰もが羨む安定した職業の数々、生徒は食い入るように資料を見つめています。

松永教授

「理学、工学、情報科学、経済学などを学ぶためには数学は必要不可欠。医学で生命科学を学ぶには数学のなかでも確率や統計が重要。法学などを学ぶには論理力も重要です。大切なことは、自分で考え、自分でわかったと納得できること。公式を覚えるだけでなく、公式の意味やその導出方法を理解することが必要です。そして同時に、間違えたことをよく考えるということも大切です。そうすると数学の理解がより深まることを、今日は学んでいきたいと思います」。

考え方を考えるのが数学

ここで松永先生からの出題タイム!理系志望の生徒にとっては、いよいよ腕試しです。
最初は「1から9まで並んだ数字の間の□に+(プラス)または-(マイナス)を入れ、たし算ひき算の等式を完成せよ」という問題です。

松永教授

「今日集まってくれた皆さんはもちろん計算は得意ですよね?もう答えが見つかったという人いますか?」
松永先生からの挑発的な問いかけに、速攻で挙手をしたのは、ちょっとクールな女子学生。

「プラス、マイナス、プラス、マイナス、マイナス、プラス、マイナス、プラス」。
臆することなく淡々と回答していく姿は、さすが理系女という感じで、頼もしさを感じます。

「正解。別の答えの人は?」次々と新しい回答が続くなか、松永先生からは鋭い一言。

「実はこの問題は小学3年生の授業参観で考えていた問題で、小学生の答えは負の数を扱わないので2つです。これを高校生用にアレンジすると、□にプラスまたはマイナスを入れて等式を満たす組み合わせは何通りあるかということになります。もちろん、やみくもにやるのはだめ。【考え方を考えるのが数学】で、発想力が大切です」。

□にすべてプラスを入れると左辺の合計は45。□にプラスまたはマイナスを入れて1にしたいので、たす数の合計が23、ひく数の合計が22になればいい。2から9の中で和が22となる組み合わせは12あるから、答えは12通りになります。

「ちなみに左辺のたし算ひき算の合計が2になるのは何通りあるかな?数学は条件(この場合は数字)を変えて問題を検証することも大切なので、またトライしてみてください」と松永先生。問いかけと同時に数学者としての基本的な研究姿勢も伝えます。

松永教授

ちなみに左辺の合計が2になる答えはゼロ通りとのこと。

「鳩の巣原理」を使って証明せよ!

次に出題されたのは、アリの問題。「半径5センチメートルの円形容器にアリを7匹いれると、お互いに5センチメートル以内に近づくアリが少なくとも一組いることを説明せよ」との問いに、そんなのアリ?といわんばかりに高校生の目は点、鉛筆を持つ手もフリーズします。(注:少なくとも一組いるとは、2匹以上いるということです。)

「これを証明するためには「鳩の巣原理」を使います。鳩の巣が9個あり、10匹の鳩がいたとします。ここにすべての鳩を入れると、必ずどこかの巣に2匹以上の鳩が入ってきます。つまり、n 個の物を m 個の箱に入れるとき、n > m であれば、少なくとも1個の箱には1個より多い物が中にあるという原理で、部屋割り論法とも呼ばれます」。

松永教授

この一見当たり前とも思える基本的な原理が、数学の証明問題を解く上で幅広く役立つとのこと。

「この原理を使って、アリの問題を解いていきます。円形容器を6等分すると、アリは7匹いるから同じ部屋にいるアリができます。円の半径は5センチメートルなので、同じ部屋にいるということは、お互いに5センチメートル以内にいるということがいえます。つまり、5センチメートル以内に近づくアリが少なくとも一組いることを証明できます」。

松永教授

先生の問いかけには沈黙していた生徒たちでしたが、解説を聞いて一同納得の表情!
でも、そこで終わらないのが数学者の松永先生。

「これがもし、アリが5匹の場合だったらどうなるかな?円形容器を4等分したらアリは5匹だから同じ部屋に入るアリは2匹はいるけど、5センチ以内に近づくかな?」。

円形容器を4等分する場合、同じ部屋にいる2匹のアリが直角二等辺三角形の斜辺の両端に移動すると5センチメートルより離れてしまうので、残念ながら「同じ部屋にいるということは、お互いに5センチメートル以内にいる」ということがいえません。

ひとつの問題を解いて終わるのではなく、さらに一歩踏み込み、反例(成り立たない例)を考えることにより問題解決のための本質的な条件を明らかにし、証明していきます。

間違いは理解を深めるきっかけ

最後の問題は「円周率は3.05よりも大きいことを示せ」との問い。高校の数学では有名な問題という松永先生の言葉とは裏腹に、初めて知ったという生徒が多く興味津々。

「円周率は3.141592653・・・だから、3.05よりも大きいんじゃないの?と思うのはもちろん正しいですが、円周率はどうやって定義しましたか?定義したことを使って示しなさいというのが、この問題の問いです」。

円周割る直径が円周率。円周の半径の長さを1とすると、直径が2になって、円周は2π。一方、円周に内接する正6角形の周の長さは6で、円周の方が明らかに長いので2π> 6となり、円周率は3より大きいということが証明できます。

「目標の結論を示すために、さらに正8角形で考えた場合はどうでしょう?正8角形の1辺の長さは余弦定理から求まるので、あとは皆さんが知っている数学の知識を使って問題を解けます。これはあくまでひとつの方法で、ぜひ別の証明方法でも解いてみてください」。

たった1時間の講義とは思えぬ充実した内容に生徒の皆さんも満足げな様子で、「いろいろ知れて良かったです」「一方的な授業ではなく、一緒に考える時間があって良かったです」といった感想が寄せられました。

松永教授

最後に松永先生からは「数学は決して大学入試のためにあるのではなくて、数学を通してどれだけ考える力を持っているかをみるためのものです。また、間違えることは決して恥ずかしいことではありません。客観的にどこが間違っていたかを分析することで、より理解が深まります。数学好きの人はさらに勉強して欲しいし、苦手な人も見方を変えることで理解できる部分を増やし、少しでも数学を楽しんでもらえるようになることを祈っています」と高校生の皆さんへエールが送られ、大きな拍手で講義は終了しました。

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