第14回公開セミナー 「Neutrons and Daily Life(中性子と私たちの生活)」を実施

開催日:2020年2月9日(日) 14:00〜16:00

場 所:なかもずキャンパスA12 サイエンスホール

第14回公開セミナー 「Neutrons and Daily Life(中性子と私たちの生活)」を実施

大阪府立大学 生命環境科学域 理学類・理学系研究科では、毎年、理学に関するトピックをもとにした公開セミナーを開催しています。14回目にあたる今回は、スペインから、スペイン国立研究評議会(CSIC)アラゴン材料科学研究所(ICMA)所長のJavier Campo氏(ハビエル・カンポ氏)をお招きし、「Neutrons and Daily Life(中性子と私たちの生活)」をテーマに開催。私たちの身の回りのさまざまな分野で役立っている中性子についてお話いただきました。当日は、英語による講演にもかかわらず、多くの方々にご来場いただきました。

美しい歴史的建築物のまちサラゴサから大阪府立大学へ

はじめに、入江 幸右衛門 理学系研究科長による開会の挨拶。本セミナーの趣旨、講師のプロフィール紹介に続いて、ハビエル・カンポ氏の登場です。

ハビエル氏からはまず、活動拠点であるサラゴサ自治州の成り立ちや文化、建築物についてご説明いただきました。ローマ、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の混合文化を持つサラゴサの宮殿や教会の美しさに、参加者の皆さんも大変感動された様子でした。

中性子を使えば物質の性質を調べることができる

いよいよ話題は中性子の話へ。
中性子とは、原子核を構成する粒子のうち、電気を帯びていない中性の粒子で、電子線やX線とは異なる性質があり、物質を調べる道具として活用されています。

<中性子の主な性質>
・電気を帯びていないため、原子の持つ電子に邪魔されず、物質の奥深くまで入り込める
・中性子は電子の持つ磁気的な力を感じることができる
・電子に邪魔されずに原子核に触れ、その性質を調べることができる

そんな便利な性質を持つ中性子を作る方法としてあげられたのが、原子炉や加速器などを利用し、原子核反応によって中性子を生成する方法です。

世界中の研究者が中性子を使って研究しています!

原子炉の場合、原料はウランの原子核です。ウランに中性子が1個当たると核分裂を起こし、新たな中性子が放出されます。この放出された中性子がほかのウランの核分裂を引き起こして、さらに中性子を放出します。ウランとともに中性子のスピードを落とす減速材を入れることで安定的に中性子を取り出すことができます。

原子炉というと原子力発電に使われているイメージが強いですが、中性子を取り出すことを目的とした、研究用の原子炉も世界各地にあります。その代表的な場所のひとつが、フランス・グルノーブルのラウエ・ランジュバン研究所(ILL)です。

物質の性質を調べたり、エネルギー問題の解決や生命科学の研究など、世界中の研究者がここで多くの実験を実施しています。日本でも、茨城県東海村にあるJ-PARCセンター、日本原子力研究開発機構で中性子線を使った実験を行っています。
もうひとつ、加速器を使った方法もご紹介いただきました。
加速器で光の速度近くまで加速された陽子を、大きな原子核に衝突させると、核が砕かれるときに中性子が発生します。代表的な研究施設はスイスやイギリスにあり、日本のJ-PARCセンターにも加速器を使った中性子発生装置があります。
前半は少し硬めの内容が続きましたが、後半は、目から鱗!?の中性子の活用例をたくさんご紹介いただきました。

暮らしを豊かにしてくれる新材料の開発を中性子が支える

例えば、高い強度を持つ合成繊維として知られているケブラー®。今では手袋や防弾チョッキなど、さまざまな製品に応用されていますが、中性子を使って構造を調べることで、分子の重なり方と強度の関係がわかり、材料の性質をより深く理解することができるようになりました。

そのほかにも、材料の研究として
・骨の接合の研究
・軽量化をはかり、性能を高めた磁石の開発
・性能の高い電池(バッテリー)の開発
・超電導線の発電システムへの活用
・より高性能なコンクリートやガラスの開発
・ガスや液体フィルターといった開発材料による環境問題への解決
・ICT(情報通信技術)物質の開発
などが行われています。中性子の波の性質を使って結晶の構造を調べることで、私たちの暮らしを豊かにしてくれる、より高い機能を持った材料が次々と開発され、環境問題の解決にも役立っています。

文化遺産の調査、修復に!中性子で非破壊検査

また、中性子線は金属材料の奥深くまで入り込むことができます。この性質を使って、調べたいものを破壊することなく、その内部を調べることができます。具体的には、
・ファラオの墓の埋葬品調査
・5,200年前のミイラから当時の生活の推測
・芸術作品の修復
といった文化遺産の点検や調査、修復に役立っています。
なかでもおもしろいのが、ヴェネツィアの画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオの作品「果物皿を持つ女性」です。X線写真を撮ると、絵の下に男性の肖像画が描かれていることがわかり、中性子写真を撮ると、椅子に座っている女性(見えているのはドレスと腕)の像が現れました。1枚の絵の下に2つの異なる絵が発見され、話題になりました。

未来を変えるだけでなく、歴史をも塗り替える中性子の力

ほかにも、中性子を使った科学捜査によってナポレオンの身体からわずかな量の元素(猛毒のヒ素)が検出されたり、隕石が火星に衝突した際に火星に磁極がなかったことがわかったり、未来を変える大発見だけでなく、過去の歴史をも塗り替えかねない大発見にも中性子が活用されています。想像以上にたくさんの分野で中性子が役立っていることがわかり、参加者一同、驚きの連続でした。

講演には日本語の補足資料やスライド字幕もあり、英語が得意でない方にもご理解いただける内容で、最後の質疑応答も、英語、日本語、織り交ぜての積極的な意見交換が行われました。参加者の方からは「中性子が私たちの暮らしに大変役立っていることがわかった」とのコメントもいただき、中性子についての理解を深めていただく良い機会となりました。

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