最先端の望遠鏡で探る銀河進化のドラマ 講演内容
講演I: 赤外線で探る銀河の進化
金田 英宏(名古屋大学大学院理学研究科・准教授)
ある温度をもった物体は必ず光を出します。それはマッチの炎のように高温であれば目で見える光(可視 光)となり、我々の身体やもっと低温の物質では目で見えない光(赤外線)となります。我々は赤外線で宇 宙を観測しています。宇宙空間にはダストと呼ばれる無数の固体微粒子が存在しますが、ダストは可視光を 遮ってしまいます。天の川に暗い筋が見られるのは、ダストによる減光のためです。しかし、ダスト自身は 赤外線で光っていて、この光を詳しく調べることで、宇宙空間にどのような種類の物質がどういった環境に 存在するかを知ることができます。このダストは生命体の素になる有機物の生成や、固体惑星の形成、銀河 の進化などに重要な役割を演じます。ダストが宇宙でどのように生成され、進化を遂げるのかを理解するこ とで、化学的・物質的に豊かな現在の宇宙がいかにして作られてきたのかを知ることができます。しかし、 宇宙からの赤外線は地球大気で容易に吸収されてしまうため、大気圏外に望遠鏡を打ち上げないと観測でき ません。また、望遠鏡自身が大量の赤外線を出さないように、望遠鏡を-265 ℃以下の極低温に冷やさなけ ればなりません。そこで、我々とJAXA、東京大学などが力を合わせて極低温望遠鏡と赤外線観測装置を開 発し、2006 年に日本で初めての赤外線天文衛星「あかり」を打ち上げました。本講演では、銀河のダストと その進化について、「あかり」による最新の観測結果を紹介します。
講師プロフィール:平成4年3月に東京大学理学部物理学科を卒業、平成9年3月に東京大学大学院理学系研究科物理学専攻で博士学位を取得。平成9年11月に文 部省宇宙科学研究所(現JAXA 宇宙科学研究本部)の助手に着任、赤外線天文衛星「あかり」計画に加わり、望遠鏡や観測装置の開発、観測計画の立案、衛星運用などに 携わってきた。平成20年10月に名古屋大学理学研究科の准教授に着任した。専門は、銀河系・近傍銀河の星間物質の観測的研究と、冷却望遠鏡・赤外線観測装置の開発。
講演II: 電波で探る銀河の進化
大西 利和(大阪府立大学大学院理学系研究科・教授)
星は光では見えない非常に冷たいガスから作られます。電波望遠鏡を用いると、この目には見えないガスを「観る」ことができます。銀河も星で構成されていますから、この冷たいガスを観測することで、星や銀河が、宇宙が生まれてからどのように進化してきたかを知ることができます。これらの観測に用いる電波(=ミリ波・サブミリ波)は、地上に届くまでに大気の水や酸素に吸収されるので、できる限り乾燥した高地に望遠鏡を設置する必要があります。我々は、国立天文台野辺山宇宙電波観測所内に口径1.85m 電波望遠鏡を設置し、星形成のもとである分子ガスの天の川銀河に沿った全面探査を目指しています。また、南米チリのアタカマ高地(標高5,000m)で、60 台を超える望遠鏡から構成される巨大サブミリ波望遠鏡ALMA(アルマ)の建設も始まりました。完成すると、我々の太陽系のような惑星系が形成される様子や、宇宙初期の誕生したばかりの銀河を直接捕らえることが可能となります。本講演では、電波での観測で明らかになる宇宙の姿を最新の観測成果を交えてお話しします。
講師プロフィール:平成3年3月に名古屋大学理学部物理学科を卒業、平成8年3月に名古屋大学大学院理学研究科にて博士(理学)を取得。平成11年5月に名古屋大学大学院理学研究科・助手、平成15年7月に同研究科助教授に着任。太陽程度の質量を持つ小質量星の形成メカニズムの解明により日本天文学会研究奨励賞を受賞(平成15年3月)。南米チリのアタカマ高地(標高4,800m)に設置されたミリ波・サブミリ波望遠鏡「NANTEN2」計画の推進で中心的な役割を果たし、天の川銀河面、大小マゼラン雲の分子ガス全面探査に貢献。平成21年4月に大阪府立大学大学院理学系研究科の教授に着任。ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)科学諮問委員会議長。