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北原 和夫
国際基督教大学教授
東京工業大学名誉教授
日本学術会議連携会員
日本物理学会元会長

「ヘテロへの期待:持続可能な世界の構築に向けて」

国際基督教大学
教授 北原 和夫

    大阪府立大学の「ヘテロ・リレーションによる理学系人材育成」プロジェクトは、「持続可能な世界の構築」という21世紀の課題に向けた行動として重要であると思います。20世紀は、量子力学、相対性理論という新しい物理学が生まれ、それを基礎に、物質の理解が生活を豊かにし、また宇宙の理解は我々の世界観を大きくさせつつあります。生活の豊さは一方において、温暖化ガスや有害物質の大量排出などを伴うものであり、資源やエネルギーの有限性が見えてきはじめました。こうして、21世紀は世界の「持続可能性」が重要な課題となってきたと思います。持続可能な世界の構築には、様々な分野、職種の人々が協働することが重要であり,まさにヘテロな出会いが、学びの場で重要となります。特に、同じ年齢の55パーセント以上の若者が高等教育機関に学ぶという現在において、社会の現場にたったときに協働できる知性を涵養することが重要となります。まず,大学がそのことを意識した教育を行う必要があり,それが徹底すれば,その前段階の初等中等教育も改善されていくことと思います。  いわゆる「科学リテラシー」が必要とされるのは、その協働のためです。 参照ウェブサイト
 ヘテロ・リレーションのプロジェクトでは、海外との交流があり、これは異文化体験として重要です。最近、人材育成に関する提案あるいは報告が様々まりますが、中には「世界的な競争の現場に学生、院生を送って、厳しさを経験させることが大事」と言った発言が見られます。これは極めて浅はかな考えで,まずは、根本に立ち返って考える力、さらに他の分野にも関心と共感を持てる感性を教育することを大学の教育の中にしっかりと据える必要があります。 そうすることが、本当の意味で、広い世界にでたときに、本当の意味でのリーダーシップを発揮できます。
 本プロジェクトでは、地域に向けたサイエンスコミュニケーションも同時に行われており、ヘテロな関係性における共感の育成にも力を入れているところが特徴的であると思われます。
 現在、もっとも必要とされること「協働する知性」の涵養であると考えています。大学は社会から隔絶された存在ではなく,初等中等教育から職業の現場を結ぶ中継点であるという意味で、むしろ、21世紀の持続的世界の構築のための教育全体をデザインする責任があると思っています。国連が2005年から2014年までを、持続的発展のための教育の10年(Decade of Education for Sustainable Development)として、世界的規模で教育に力を入れているのも、上記のような状況認識があるからであると思います。
 私が所属する国際基督教大学では,昨年から南アフリカとのESD(Education for Sustainable Development) のプロジェクトを実施しています。そこでのアイデアは、持続可能な世界を構築するためには、地球上に自然も社会も異なる人々が住んでいて、同じ地球のメンバーである、と言う感覚を子どものときから身に付けることが重要である、ということで、ESDモデル開発を両国の小学校の先生方の国際チームティーチングという形で実施しました。そこで、自然を大切にすることが人間の連帯を生むというところで、同じ感性を共有できました。ESDの国際協力が往々にして先進国のODAととらえがちですが、実はもっとも大切なことは、地球上の様々な人々が、差異はあっても連帯する感性を共有することであることを、ESDプロジェクトで発見しました。
日本とアフリカの小中学校連携を軸とする ESD モデルの構築・実践の試み
 ヘテロな相互作用が生み出す様々な連帯を本プロジェクトでも多いに生み出して欲しいと思います。