生命環境科学域 理学類長 メッセージ
生命環境科学域 理学類長
2018年4月
教授 八木 孝司 Takashi Yagi
- 理学とは何か
- 北極地方の夜空に流れるオーロラ、サンゴ礁に群がる色とりどりの魚、雨上がりの大空にかかる虹、いろいろな宝石の色と輝き、これらの美しさに感動した人は多いと思います。感動は不思議に思う気持ちから生じます。この不思議なできごとが起こるメカニズムを解明するのが理学です。
たとえば沖縄の海でダイビングを楽しんだとしましょう。サンゴ礁で美しい色をしたさまざまな生き物を見るということは、様々な波長の光を私たちの網膜にある錐体とよばれる視細胞が受け取るということを意味します。錐体には赤、緑、青の波長の光を受ける3種類があります。視細胞が光を受け取ると、視細胞から脳に至る多くの神経細胞が電気信号を次々と受け渡していきます。そして大脳皮質後頭葉の視覚野に届いた信号から、形、色、動き、位置などが分析されて、初めて何かを見たという認識がなされます。脳内の神経細胞ではドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの脳内伝達物質が作られます。その中でもドーパミンが「美しい」という感情にかかわり、脳の内側眼窩前頭皮質という場所の血流が増えることにより「美しい」という感動が得られると考えられています。
サンゴ礁ではタテジマキンチャクダイという美しい魚の群れが見られます。この魚は小さい時には体側に渦巻き模様がありますが、大きくなるとそれが頭部から尾部へ数本の縞模様に変わります。縞模様は等間隔で現れ、体が大きくなるにつれ縞の本数が増えます。この縞模様のでき方は、数学者チューリングの反応拡散方程式で完全に説明できます。二つの物質が、異なる速度で反応しながら広がるとき、そこに物質の濃淡の波ができ、その波が生物の模様を作りだすのです。物質の反応の強さや広がる速さを変えるとできる模様が変わり、シマウマのたて縞、キリンの網目、ヒョウの丸紋などのできかたが説明できます。
このように自然現象、それに対する感動や不思議に思う気持ちは、生物学はもとより、化学、物理学、数学から、解き明かすことができるのです。これが理学です。 - 本学理学類での学び
- 本学理学類には、数理科学、物理科学、分子科学、生物科学の4課程があります。各自の得意科目を重点科目として受験し入学した学生の興味は、しばしば得意科目とは異なることがあります。本学理学類では2年生に進級する時に、進みたい課程を選ぶことができます。これが本学理学類の大きな特徴です。1年生の間に自分の興味を基に進みたい方向をしっかり見極めることが重要です。自然科学は19世紀後半から現在に至る約150年間に急速に進歩しました。1年生から3年生の間に、これまで蓄積された自然科学の原理や法則を授業や実験を通して系統立てて学びます。3年生後半から4年生は、おもに指導教員の元で研究を行ないます。こうして学んだ知識と体験を基に、新たな自然科学の問題(未知や未解明の現象)を発見する能力と、その問題のメカニズムを解き明かす能力を養います。これらの能力は、医学、工学、農学、薬学などの応用科学の発展に不可欠です。指導教員によっては、応用指向の研究を行なう学生もいます。卒業時には企業、大学、研究機関などで研究・開発を行なうための必要な知識と能力を持った人となります。また半分以上の卒業生が大学院へ進学し,研究を通して更なる問題解決能力や研究成果発信能力などを養います。人類がさらに幸せになることを目指して、理学類(旧自然科学類および理学部)の卒業生は、世界各地で活躍しています。
