クローズアップ 教員 インタビュー

物理科学課程 / 物理科学専攻

宇宙物理学研究室

2013年3月

准教授 前澤 裕之 Hiroyuki Maezawa


Q.1 担当しておられる授業を教えてください。
宇宙物理学、物理数学、電磁気学/解析力学演習など
Q.2 どんな授業スタイルでしょうか。
授業で扱う原理や数式について、関連する日常の身近な現象や最前線の研究成果を例に、机上の学習やテキストだけでは学べないトピックスをとりいれながら、イメージをもって理解してもらえるようにしている。
Q.3 ご専門の研究内容、研究テーマを教えてください。
専門の研究内容 宇宙物理学、地球惑星科学
暗黒星雲ガスから星や惑星がどのように誕生し、いつ頃にどのような条件が整うと生命が誕生するのか。 原子1つ1つは単なる物質に過ぎないが、それが沢山集まるとなぜ意識をもつようになるのか。宇宙において、こうした生命や意識が、最終的には普遍的に発現するようにうまくできているのか。こうした子供の頃に抱いた疑問に、未だに満足に答えることができず、少しでも自分の研究がその理解に繋がっていけば、と思いながら日々研究を進めている。

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Q.4 ご自身の研究を通して、社会にあるどのような課題の解決を目指しておられますか。
  • 宇宙だけでなく、そこで育まれた地球の自然環境、生命の神秘性や大切さや奇跡を、広く多くの人に理解してもらえるようにすること。一般の人にも、最先端の科学成果を報告できるように、研究推進に力を尽くすこと。
  • 宇宙を観測する超高感度センサーを、地球のオゾン層や地球温暖化微量分子ガスなどの計測に役立てること。

など。

Q.5 研究心得のようなもので、学生に伝えたいことを教えてください。
  • 夢と好奇心を大切に、自らアカデミックな研究を楽しむことが大事。
  • 研究・実験開発の結果・解釈・計画を、きちんとこまめにノートや報告文書で 活字にして整理しましょう。頭の中でわかっているつもりでも、活字にしてみると実はロジカルに思考がまとまっていないことが実感されることは多い。活字やグラフにして自身の思考を整理し、理解を深めて初めて、先生の話が理解できたり、 周囲の人と具体的な議論を展開できるようになります。
  • 最近は、パソコンでググって、その範囲で理解した気になったり、検索にヒットしなければ、わかりませんでした、とすぐに諦める学生さんも多い。スポーツと一緒で、頭も毎日鍛錬しないと、退化してしまいます。情報がグローバル化した今、ネット検索などで様々な科学的情報を効率良く調べることも重要だけれど、一度、PCの画面を閉じて、紙と鉛筆を使って手を動かし、その背景にある物理を自身でよく反芻して理解し、日々頭をフル回転させて鍛える習慣をつけよ。
  • わからない、できない、という言葉はすぐに使わない。
  • 新聞・ニュースなども毎日かかさず見て、社会で起こっていることもよく理解しましょう。
  • 大学での研究テーマは、未知で分からないことに挑むから意味がある。その性質から必然的に教科書も無いし、教員にもわからないことが沢山でてくる。大学生・大学院生は、手探り・試行錯誤を繰り返し、自らの手で突破していく力を養うことが大切です。
  • 大学生・大学院生は、国の多くの税金が投資されて社会の期待を背負って、最先端の科学研究に触れるチャンスを得ている。学位取得に際しては、社会に対して責任と自負を持って臨まなくてはいけません。
Q.6 研究に失敗したときを振り返られて、大切なことを教えてください。
  • なぜ失敗したかをよく考え分析する。データのわずかな変化・違いを見逃さない。
  • 諦めない
Q.7 サイエンスの世界に興味をもったきっかけ、子供の頃や青年時代のエピソードを教えてください。
幼少のころに、親に天体望遠鏡と顕微鏡を買ってもらって星空や、精巧にできている虫や神経細胞などを観察した。その頃に、マクロな構造や、ミクロな構造、生命、非物質的な意識のようなものが、どのように誕生し、この世をどのように形成してきたのか、そして宇宙とは何か、自分とは何かに興味をもち始め、そこに神秘性や何故?を感じるようになった。12に続く。
Q.8 研究者の道を志したきかっけを教えてください。
おりしも、小学生の時にカール・セーガン著のCOSMOSという本が出版され、“原子が集まり脳になる。物質が意識をもち、原子の集まりが原子を考えるようになった。長い道のりを経て、奇跡的に今の人類が居る。人類はこの奇跡をずっと大切にしていかなくてはならない。”といった内容の一節で、まさに自分の中にあったモヤモヤ感とシンクロした。その時、ごく自然に自分は研究者になろうと思った。
Q.9 壁にぶちあたった時に、ご自身の支えになった事、言葉などを教えてください。
  • 中学に入学したとき、祖父が英語類語辞典をプレゼントしてくれた。その辞典の裏表紙には祖父の直筆で、

    To Hiroyuki,

    March winds and April showers bring forth May flowers

    と、マザーグース詩集の一節が書かれていた。これに気づいたのはもう祖父が亡くなった後だった。いろいろな意味で、今もずっと心の支えになっている。

  • 学生の頃は実験が嫌いだった。大学院生の頃に、尊敬する恩師が、“特注品のガラス管が割れたくらいで、実験が遅れるなんて情けないことを言っていちゃいかん。こんなものこうやって治せばいいんだ・・”と言って、目の前でガラスをガスバーナーで飴細工のように溶かし、あっという間に直してしまった。その時、目から鱗が落ち、若いうちは性に合わないとか了見の狭いことを言わず、実験でも何でも貪欲に吸収して基礎力をつけておかねばいけないのだな・・、と心をいれかえた。
  • 誰だったか忘れたが西欧の哲学者の「つらくて苦しい人生だったが、死ぬときに充実して素晴らしい人生だったと言える、そんな人生を私は送りたい」という言葉。
Q.10 好きな言葉を教えてください。
感謝
Q.11 映画・音楽・エンターテインメント・小説をはじめ文化全般に触れたときに着想されたことや感じたこと、旅先で訪れた異国、国内のことなど、最近、心に残ったことがあれば教えてください。
  • 好きなJazzのコンサートにわりとよく足を運ぶ。おいしい行きつけのレストランやカフェ、パン屋さんにもよく行く。アーティストは実に楽しそうに鍵盤に指を走らせるし、料理人は、その日の気温や湿度にも神経を研ぎ澄ませて作品を作り、心をこめて1品1品を出してくれる。これらは日々の鍛練のなせる業であり、彼らは全身全霊を喜々として鍛錬に注ぐ。プロフェショナルである。これらは芸術に限らず、スポーツ、教育、医療、エンジニア、あらゆるすべての分野に通じ、世界はそうした人たちによって支えられているのだなと感じる。洗練された芸術・文化に触れていると、いつも初心にかえり、元気をもらうことができる。
  • 日本とはちょうど地球の反対にある、チリ共和国アンデスの高地。標高5000m。近年、様々な望遠鏡の建設ラッシュが進む宇宙観測のメッカである。そこで初めて夜空を見あげたら、空は白くモヤがかかり、ところどころモヤが晴れて黒く見えた。しかし、目が慣れてくると、白いモヤは空が星で埋め尽くされていたからで、モヤが晴れていて黒い染みのように見えていたのは暗黒星雲であることがわかった。その瞬間、突如、広大で深淵な宇宙が目の前に迫り、宇宙の果てに引き込まれて落ちていきそうな気がした。それをちっぽけな地球が重力で繋ぎとめてくれ、そして確かにそこには目に見えない一縷(いちる)の大気がきっとあって、紙一重で守られているのだなと、と思った。そう思うと、さっきまで刺すように乾いて冷たかった砂漠の空気さえも、とても優しく親密に感じられた。自分は本当に宇宙の階層の一部なんだ・・と体で感じた不思議な体験だったし、今思い返しても、あれだけの星を目の当たりにすると、この星空のどこかに私達と同じような生命がいたっておかしくないな・・・と思ってしまう。
  • そんなアンデスの高地でも、日本の中古車が沢山走っている。山頂は空気が薄く、昼夜の温度差が激しい。そんな砂漠の真ん中での事故は即命取りになる。実際、砂漠でエンコしたり、ひっくりかえって放置されている車は外国の車ばかりで、日本車はとても信頼されていた。精確無比の最先端テクノロジーをもち、しかも礼儀正しい日本人は畏敬の念さえ抱かれているようだった。地球の反対側の山奥のオアシスにまで日本や日本の企業の名前が通じ、初めて自分を日本人として意識し、誇らしい気分だった。しかし、これはひとえに、我々の先人/エンジニアが良いものを一生懸命時間をかけて作り、信頼を勝ち取ってきた努力の賜物である。そのおかげで、資源の無い島国日本は飛躍的な発展を遂げ、今我々は裕福な生活を享受することができるのだな・・とその時にあらためて実感した。日本の科学技術・経済の再生の鍵はそこにあると思うし、これからの若い人や大学生にとって、きっとそこに、これからの時代を生きるヒントがあるはずで、夢と熱意をもって日本や人類/地球を支えていって欲しいと願う。
Q.12 二〇代に薦めたい書籍を教えてください。
  • シュレディンガー著 「生命とは何か」
  • 寺田寅彦著 「寺田寅彦 随筆集」
  • ジェームス・D・ワトソン著 「DNA」、「二重らせん」
  • 戸塚洋二著/立花隆編 「がんと闘った科学者の記録」
  • 平山郁夫著 「群青の海へ」
  • 小澤征爾著 「僕の音楽武者修行」
  • 川島幸希著 「英語教師 夏目漱石」
  • ファインマン著 「ファインマン物理学」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


望遠鏡のコンソール画面

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


国立天文台野辺山宇宙電波観測所の干渉計望遠鏡群(上)。そのうちの一台を独立させて改良し、世界初の惑星観測専用地上ミリ波望遠鏡が誕生した(下)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


国立天文台野辺山宇宙電波観測所。奥に見えるのが、単一鏡としては世界屈指の空間解像度を誇る口径45mの電波望遠鏡。超高感度の超伝導検出器を搭載し、暗黒星雲や銀河の進化、星誕生の謎に迫る。手前に複数見える中クラス(口径 10m)の望遠鏡群が干渉計。