クローズアップ 教員 インタビュー

生物科学課程 / 生物科学専攻

分子細胞遺伝学研究室

2014年3月

准教授 川西 優喜 Masanobu Kawanishi


難題に挑む研究で世界に貢献 環境因子が生体に与えるしくみを解明する

Q.1 担当しておられる授業を教えてください。
3回生配当の「遺伝子工学」と大学院での「環境ストレス生物学特論」のそれぞれ一部を担当しています。2014年度から3回生配当の「環境応答制御論」も担当する予定です。
「遺伝子工学」では遺伝子組換え技術などバイオテクノロジーの基礎を、「環境ストレス生物学特論」では環境汚染物質の生体影響を教えています。「環境応答制御論」では毒性学の基礎を講義する予定です。
Q.2 どんな授業スタイルでしょうか。
言葉だけでなく視覚的に理解できるよう工夫しています。
「百聞は一見にしかず」で、分子の動きや酵素のはたらきなどを、アニメーションを併用し解説しています。
Q.3 ご専門の研究内容、研究テーマを教えてください。
環境汚染物質や放射線、紫外線などの環境因子が生物・人体にどう影響するかを、DNA損傷から突然変異、発がん、内分泌かく乱といった観点から、分子レベルで研究しています。生物は様々な有害因子に実にうまく対応して生きています。そのしくみがどのようなものか、また、しくみが破綻したときには何が起こるのかを調べています。
Q.4 ご自身の研究を通して、社会にあるどのような課題の解決を目指しておられますか。
環境汚染の解決を目指しています。
最近はPM2.5など大気汚染のニュースを見聞きすることが多いと思います。
大気汚染物質はどうやってがんをつくるのか、そうした問いに答えるための基礎的な研究をしています。結果がでると国際学術誌に発表しますが、世界中で発表される学術論文が環境基準や規制値を設ける際の科学的根拠となっています。
Q.5 ご自身の研究室について、過去現在を問わず、語り継がれる話題、印象深いできごと、名物イベントがあれば教えてください。
毎年夏に催される、小・中学生とその保護者を対象にした科学啓蒙イベントに研究室の学生と共に参加し、子どもたちに科学の楽しさをわかりやすく伝えています。
私たちの研究室では科学啓蒙活動にも力を入れています。大学の科学研究には多額の税金が使われており、市民(納税者)の皆様にその成果を知っていただくことは重要な責務と考えています。
Q.6 研究心得のようなもので、学生に伝えたいことを教えてください。
いつも将来を楽観的、楽天的に見通すことが大切と思います。
研究アイデアをひらめいて、いざ始めてみても、うまくいかないことがほとんどです。
十試して一つうまくいけば上出来、そういうものだと達観して研究に打ち込んで貰えると嬉しく思います。
Q.7 サイエンスの世界に興味をもったきっかけ、子供の頃や青年時代のエピソードを教えてください。
父が通信会社の技術者でした。子供の頃は騒々しく稼働中の巨大なクロスバー交換機が入る職場に連れて行ってもらったり、家にはマイクロ波伝送機器の図面が置いてあったりしました。
理系的雰囲気の家庭ではあったと思います。
Q.8 研究者の道を志したきかっけを教えてください。
身近にいた研究者の影響が大きいでしょうか。
高校時代までを親元で過ごしましたが、先祖の法要においで願っていたお坊様の本業が大学教授でした。法要のあとのお膳の席では決まって、研究する人生がいかに楽しいか、よく聞かされていました。大学時代の銀閣寺近くの下宿にも、研究を志す年の離れた先輩たちがいました。夜な夜な鍋をつつきながら、研究者とはどのような職業か、彼らの話を通して具体像が形成されたように思います。
Q.9 壁にぶちあたった時に、ご自身の支えになった事、言葉などを教えてください。
“「私は人生に何を期待できるか」ではなく「人生は何を私に期待しているか」を問いなさい”
後述の推薦書籍にあるV.E.フランクルの言葉です。そして具体的には、“自分が掛け替えのない人間であるところの仕事や人に対して負う責任を自覚し、それらに対する日々の勤めを果たしなさい。“ 
私にとっては、どんな嵐の中でも絶えずはっきりと見えて確かな進路を示してくれる、灯台の灯りのような言葉です。
Q.10 座右の銘や好きな言葉があれば教えてください。
“ What do you care what other people think? “(他の人がどう思おうとかわまない)
R.P.ファインマンの、正確には彼の最初の奥さんの言葉で、後で述べる推薦書籍のタイトルにもなっています。
1回生の時、ファインマンの教えを受けた先生に力学を習いました。その先生から、権威や世間的常識に盲目的に従ったりせず、自己を見失いたくない者への勇気づけの言葉として知りました。
Q.11 映画・音楽・エンターテインメント・小説をはじめ文化全般に触れたときに着想されたことや感じたこと、旅先で訪れた異国、国内のことなど、最近、心に残ったことがあれば教えてください。
学校を出た後しばらくヨーロッパで働いていました。
自分と同世代の同僚たちの生活を間近に見て、ワークライフバランス、男性の育児参加、女性の社会進出など、多くのことを考えさせられました。日本は少子高齢化でヨーロッパより遥かに厳しい状況にあります。社会制度の改革はもちろん大切ですが、わたしたち一人一人の意識改革も求められていると思いました。
Q.12 二〇代に薦めたい書籍を教えてください。
今日の話に関連する、私自身も十〜二〇代に出会った本を何冊か挙げておきます。

藤原正彦著「若き数学者のアメリカ」
博士号をとったばかりの著者が単身渡米し、苦闘しながら前途を切り拓いていく様子が躍動的に綴られています。研究者を目指される方はもちろん、志をいだいた若人に一読をお薦めします。

R.P.ファインマン著「ご冗談でしょう、ファインマンさん」「困ります、ファインイマンさん」
ノーベル賞物理学者の自伝的エッセイで、生きることがこんなに愉快なことなのか、読む人を元気にしてくれる本です。後者もおなじ著者によるものですが、悲しい話もあったりして、前者とは少し趣を異にします。

V.E.フランクル著「夜と霧」
ナチス強制収容所を生きのびた壮絶な体験から人生の意味を思索する本です。日本では震災後手に取る人が増えたと聞きます。近頃新訳が出ましたが、解説資料がなくなりました。ホロコーストについて詳しくない方は新旧両版を読まれることを強くお薦めします。

C.レヴィ=ストロース著「悲しき熱帯」
私たちにも普遍的と思える欧州文明を相対化してくれます。ブラジル「未開」社会を旅した紀行文の体裁をとっていますが、芳醇な「知」の凄みを感じさせる一冊です。より良い職に就くためではなく、学問を志して大学に入られた方に一読をお薦めします。

川西 優喜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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